鳩の子の三日間 その2

5月2日
 物置から鳥かごをだしてきて、マーちゃんを入れた。餌は、ネパールの粟の粉を湯でといで、指でたべさせた。さらに、アイルランドの雑穀があったので、ゆでて、小さい豆類を食べさせた。人差し指で、少し受け口になっている下嘴を下に押し下げ、空いた口の奥に親指と人差し指で挟んだ豆を押し込んでやる。そうしないと飲み込むことができない。子どもの時は、嘴の先からは、食べ物を飲み込むことができず吐き出してしまう構造になっている。
 嘴がかたくなって、餌を啄ばめるようになることが巣立ちの第一条件になる。それまでは餌の世話がたいへんである。しかし、その大変さがまた楽しくかわいいのである。それにしても逃げようともせず、食べさせてもらうままに食欲も有る。これは大丈夫だ。
 夜は、新聞紙で籠を覆ってやり、廊下に置いた。舌にダンボールも引いた。これで十分だろうと判断した。翌朝、3時過ぎに廊下の電気をつけて様子を見た。隅のほうで眠っていたが、目を覚ましたようで、金網をガタガタと嘴で音をたてながら、出してほしい・餌がほしいとねだっている様子。しかし、もう一度廊下の電気を消し、仕事が済んで、朝の勤行を済ませて、6時45分にもう一度鳥かごを除いてびっくりした。
 たしかに、3時過ぎには、金網をガリガリと音立てていたはずのマーちゃんが、倒れている。足を後ろに伸ばし、羽を開き気味にして、顔を横向けて、眼を閉じかけたり開けたりしている。ほとんど虫の息の状態。
 しまった、朝方の冷えでやられたか…。左手にマーちゃんをのせると足が冷たい。体も冷えている。目を閉じかけていく。右手で体を覆い、左手で足をさすりながら、体を温めた。足は、のばしたまま、足の裏が上をむいた状態に伸びている。危険な状態だ…。助からないかもしれない…。妻にいって、豆乳を温めてきてもらって、ポトリ・ポトリと嘴にかけてやる。ほとんど飲めないが、すこしでものどを通っていく様子が見て取れる。朝日が廊下に差し込んできて、窓越しにも温かい。
 30分ほどしたとき、足に力がもどったのを感じた。同時に。私も、いけるかもしれない…という気持ちに変わった。さらに30分のあいだに、目がしっかりと輝きだし、首をたてて、足をふんばり、そして自分でたちあがることができた。助かった。
 動けるようになったマーちゃんを廊下に下ろすと、私の体にすりよってきて、体によじのぼり、右わきの下に潜り込むようにして動かない。ゆっくりと好きなようにさせて、マーちゃんを休ませてやった。

 それから、マーちゃんは、小さな声でピー、ピーと鳴くようになった。それまであまり鳴かなかった。しかし、その声が体の割りには小さいことが少し気になった。昔、鳩を飼った経験では、このくらいになったら、かなり大きな声で鳴く。そればかりか、人間が近づいたら、羽で叩こうとするくらいの野性性を持っている。ところがマーちゃんは、それをしない。声も小さい…。
 しかし、餌は良く食べてくれる。昼間は、日の当たるところに籠を置き、日がかげってからは、雛を飼ったときのように裸電球で温めてやることにした。最初は40ワットでしてみたが、夜は小さめのダンボール箱を鳥かごの中に入れ、その上から10ワットの電球で温めるようにして様子を見てみた。これでいけそうだ…。
 翌朝3時すぎに様子を見ると、元気にしていた。もちろん、仕事が終わってからも昨日のようなことはなく、元気に外に出してくれと訴えてきた。出してやると体にとびついてくる。そうやって、作務衣に糞をされながら、ゆっくりと餌を与えた。昼も夜も同じように…。娘が帰ってきて、私がうれしそうに餌をやるところを見ていた。娘が手を出すと、その手を嘴でつついている。こうやってだんだんと自分で餌をとることを憶えていくのだろう。
 昔、こうやって育てた鳩が、空を飛びながら、家の屋根から屋根に飛び移りながら、どこまでも着いてこようとしたことを思い出し、この鳩もそうなってしまうかもしれない…。そうならさないためには、どこで突き放すかを判断しなければならない…などと、先のことまでも考えながら、電球を入れて、眠る準備をした。
 近くで勉強をしている娘は、「マーちゃん、外に出たがって、箱の中でだいぶあばれていた」と話していた。そして次の朝、三日目のこと…。

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